JPEGやMPEGは現在広く利用されており、WWWやマルチメディアを支える基盤技術となっている。このような画像、動画の符号化方式は標準化されなければ広く利用されない運命にある。例えば動画の符号化方式に関していえば、MPEGの作られた当時ではハードウェア圧縮伸張するしかなく、メーカーが独自の符号化方式の製品を出してもメーカー間の相互利用ができないため、コストが安くならないという問題を抱えていた。その問題をMPEGが解決し、動画業界全体の市場規模を拡大し、ビデオテープに代わるDVDの誕生など業界のパラダイムをシフトさせる要因となった。
そのJPEGとMPEGの標準化WGの議長は日本人で、安田浩氏である。その安田氏の最終講義と標準化の様子について、画像処理技術に革命もたらした東大安田浩教授の最終講義 – ビジネススタイル – nikkei BPnetにて伝えられている。
中でも特に印象的な引用を引用する。
「一つは、これまでAC電源から、テレビ放送、ビデオ方式などさまざまの電気系の技術が単一の世界標準を確立することに失敗して、不自由で不便な技術世界を作ってしまったことを反省して、絶対に複数の世界標準ではなくて、単一の世界標準を作ることにこだわろうという強い決意を持ってこの問題に取り組んだことです。そのためには、自分たちが一歩引き下がってでも、全体の合意を取りつける方向を選んだことです」
「もう一つは、合意を取りつけるために、客観的な評価方法をきちんと確立した上で、公平なコンペをするという方法を選んだことです。そしてそのようなコンペを実現するために、日本があらゆる技術支援を惜しまなかったことです。『口を動かすより、まず手を動かせ』が日本からの技術支援部隊の合言葉でした。手を動かすより口を動かすことが達者な人ばかり集まる国際会議の場では、日本の技術支援によって、文句の出しようのない物理データをきちんと積み上げて議論に決着をつけるという方式が功を奏したのです」
「客観的な評価方法をきちんと確立した上で、公平なコンペをする」という手段は、一般的な研究活動のように思えるが、こと、自分の研究や主張に対しては行いにくい側面があり、”ある限られた一面のみにおいて”という前置きをしてしまう傾向にある。安田氏はコンペを行い、自国案が及ばないことを認め、もっとも優れた案を採択した。標準化以後、多くの人に利用される技術に対して、その時代にもっとも優れた技術を採用したという功績は素晴らしいものである。
今まで”日本人は標準化が苦手”と誰かから聞いて思い込んでいたが、そうではないようだ。日本企業の利己的な体質が標準化を難しくさせており、自社技術よりもその業界全体の利益を考えた標準化方針こそが市場の底上げを実現し、将来の利益に通じるものだという認識をすることが必要だと感じさせられた。